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NORTH HILL AI・LLMO Weekly Report

Vol.16|今週のAI・LLMOトレンド

Vol.16 2026年6月26日

前号では、「国家と資本」がAIの動きを左右した一週間としてお伝えしました。今週見えてきたのは、その先にある変化です。AI競争は、単なる“チャットAIの使いやすさ比べ”から、AGI(汎用人工知能)やASI(人工超知能)まで見据えた、より大きな競争へ移り始めています。

象徴的だったのが、Google DeepMindの論文「From AGI to ASI」です。人間レベルの汎用AIから、人間の組織を超えるような超知能へ、AIがどのように進む可能性があるのか。DeepMindはその道筋を、スケーリング、AIパラダイムの転換、再帰的自己改善、マルチエージェント集団という4つの観点から整理しました。

同時に、市場の勢力図も動いています。調査会社Sensor Towerの最新報告では、ChatGPTの世界シェアが2026年5月に46.4%まで低下しました(同社のTrue Audience指標=アプリとWebを横断したユニーク利用者ベース。5割を初めて下回ったのは2026年3月とされます)。一方で、Googleの「Gemini」とAnthropicの「Claude」は大きく伸びています。

OpenAIは、現在の主要AIの“土台”となった論文「Attention Is All You Need」の共著者の一人をGoogleから獲得し、大型の法人導入も発表しました。GoogleもGeminiの展開を強めています。今週の共通メッセージは、AIは“一強・一モデル”ではなく、複数の基盤が競い合う段階に入ったということです。

Topic 01

DeepMindが「AGIからASIへ」の論文を公開——競争は“チャットAI”の先へ

Google DeepMindが公開した論文「From AGI to ASI」は、AI競争の焦点が「どのチャットAIが便利か」から、「人間レベルを超えるAIをどう作り、どう制御するか」へ移り始めていることを示しています。

ここ最近、AI業界の議論を一段引き上げているのが、Google DeepMindの論文「From AGI to ASI」です。テーマは、AGI(汎用人工知能)からASI(人工超知能)へ、AIがどのように進む可能性があるのか。つまり、競争の焦点は「どのチャットAIが便利か」から、人間レベルを超えるAIを、どのように作り、どう制御するのかへ移り始めています。

論文では、AGIからASIへ進む道筋として、4つの可能性が示されています。ひとつは、現在の大規模モデルをさらに拡張していく「スケーリング」。次に、いまのAIとは異なる新しい設計原理が生まれる「パラダイム転換」。さらに、AIがAI自身を改良する「再帰的自己改善」。そして、多数のAIエージェントが協調して、ひとつの巨大な知能のように働く「マルチエージェント集団」です。

重要なのは、DeepMindがこれを単なる未来予想としてではなく、現実に検討すべき研究課題として整理している点です。論文は、AIの進歩には大きな不確実性があるとしながらも、今後数年でAIの発展がさらに加速する可能性は否定できないとしています。もしそうであれば、AGIがある日突然登場して社会が一変するというより、AIによる科学・技術・産業の変化が、段階的に、しかし連続して起きる可能性があります。

この記事のポイント

AI競争は、もはや「ChatGPTか、Geminiか、Claudeか」という比較だけでは捉えきれません。主要企業は、チャットAIの次にあるAGI、さらにその先のASIまで見据えて動き始めています。企業側も、目の前のツール選定だけでなく、AIが業務を代行し、改善し、複数のAIが連携する時代に備えて、データ・権限・ガバナンスの設計を進める必要があります。

Topic 02

ChatGPTのシェアが5割未満に——Gemini・Claudeが追い上げ

「AIといえばChatGPT」という常識が、データの上でも揺らぎ始めています。Sensor Towerの最新報告では、ChatGPTの世界シェアが2026年5月に46.4%まで低下。一方で、GeminiとClaudeが大きく伸びています。

6月17日に公開されたSensor Towerの「State of AI 2026」報告によると、ChatGPTのシェア(同社のTrue Audience指標=アプリとWebを横断したユニーク利用者ベース)は、2024年12月の65.3%、2025年12月の52.8%から、2026年5月には46.4%まで低下しました。この指標で50%を初めて下回ったのは2026年3月とされています。一方、GoogleのGeminiは27.7%(2024年12月は18.2%)、AnthropicのClaudeは10.3%(2025年12月は約3%)へと伸ばしています。

注意したいのは、これは「ChatGPTの利用者が減った」という意味ではない点です。月間利用者数はChatGPTが約11.1億人と依然トップで、絶対数では増え続けています。ただ、Gemini(約6.6億人)やClaude(5か月で約4倍の2.45億人)の伸びがそれを上回ったため、相対的なシェアが下がった、という構図です。

背景には、Googleが検索・Android・Workspaceといった巨大な接点にGeminiを組み込み、利用機会を広げていることがあります。ChatGPTが先行して市場を作った一方で、いまはGoogleやAnthropicが、それぞれの強みを生かして追い上げる段階に入っています。

この記事のポイント

「AI=ChatGPTだけ」という前提で、社内のツール選定や情報発信を組むのは、すでにリスクになりつつあります。少なくともChatGPT・Gemini・Claudeの3つは“使われている前提”で、自社の業務やマーケティングを設計したいところです。特にGeminiは検索との一体化で接点が広く、無視できない存在になっています。

Topic 03

OpenAIは人材と法人導入で反撃——“Transformer論文”の共著者を獲得

シェアをめぐる競争は、モデル性能だけでなく、人材獲得と法人導入の競争にも広がっています。今週はOpenAIが、象徴的な人材獲得と大型導入で大きく動きました。

OpenAIは、現在の主要AIの“土台”となっている2017年の論文「Attention Is All You Need」の共著者の一人で、GoogleのGemini開発を共同で率いていたノアム・シャジア氏が、6月18日にOpenAIへ移ると明らかにしました。アルトマンCEOは「10年越しの実現だ」とコメントしており、技術競争が人材獲得競争でもあることを改めて印象づけました。

法人導入でも動きがありました。OpenAIは、ChatGPT Enterprise/CodexをSamsung Electronicsの韓国国内全従業員と、世界のDevice eXperience(DX)部門の全従業員に導入すると発表。さらにGetty Imagesとの提携も公表し、ライセンス画像をChatGPTの検索・発見機能に表示する取り組みを進めます。

一方のGoogleも、Geminiの展開を強めています。5月のGoogle I/Oでは「Gemini 3.5」シリーズを発表し、「Gemini 3.5 Flash」をGeminiアプリ・Google検索のAI Mode・開発者向けAPIなどに展開しました。上位版「Gemini 3.5 Pro」や高度な推論モードをめぐる情報は、公式発表と報道が入り混じっているため提供状況の確認が必要ですが、Googleが上位モデルと既存サービスの接点を武器に攻勢を強めていることは確かです。

前号で取り上げたFable / Mythosの提供停止問題も、ここに重なります。AIは便利なツールであると同時に、国家安全保障や輸出管理、企業のリスク管理の対象にもなっています。つまり、競争は「モデルの性能」だけではなく、誰が使えるのか、どの業務に組み込めるのか、どの国・企業に提供できるのかまで含む段階に入っています。

この記事のポイント

トップ企業同士の競争が激しくなるほど、「最強モデル」は数か月単位で入れ替わります。大事なのは“今いちばん強いAI”を追い続けることではなく、強いモデルが変わっても乗り換えられる体制を整えておくことです。複数社のAIを試せる状態を保ち、特定の1社に深く依存しすぎないことが、結果的に賢い付き合い方になります。

Topic 04|LLMO(AI時代の検索対策)

「AI=ChatGPT」のLLMOは、もう通用しない——複数エンジン前提へ

今週のシェア変動は、LLMO(AIに引用・参照されるための対策)にも直結します。最適化すべき相手は、もうChatGPTだけではありません。

前号では「同じ質問でも、AIごとに引用するブランドや情報源がまるで違う」という話をお伝えしました。今週の数字は、その重要性をさらに裏づけています。Geminiが約28%、Claudeが約10%のシェアを持ついま、「ChatGPTでどう見えるか」だけを見ていると、ChatGPT以外の接点での見え方を見落としかねません。特にGeminiはGoogle検索やAndroidと一体化しているため、“Google経由でAIに拾われるか”の重要性が増しています。

では、何をすべきなのでしょうか。やることの本質は変わりません。どのAIにも共通して効くのは、「正確で・構造化された・一次情報」です。定義や数値、対象者、更新日が明確で、AIが読み取りやすい形に整理された情報は、エンジンを問わず引用されやすくなります。そのうえで、ChatGPTだけに任せず、主要なAIを横断して「自社がどう紹介されているか」を実際に確かめること。これが、複数AI時代の基本動作になります。

これは、DeepMind論文が示した「複数のAIエージェントが協調して働く」未来ともつながります。将来的にAIが情報を探し、比較し、業務判断を支援するようになるほど、企業情報は人間だけでなくAIにも読み取られる前提で設計する必要があります。

この記事のポイント

自社名や主力商品について、ChatGPT・Gemini・Claude・Perplexityの4つに同じ質問を投げ、答えを見比べてみてください。エンジンごとの違い(引用される/されない、説明の正確さ)が、いまの自社の「AIからの見え方」です。まずは月1回、結果を記録することから始めるのがおすすめです。Geminiでの見え方は、Google検索での見え方とあわせて確認しておきましょう。

今週見えてきたのは、AI競争が“チャットAIのシェア争い”だけではなくなったということです。DeepMindはAGIからASIへの道筋を論文として整理し、ChatGPTのシェアは5割未満に低下、Gemini・Claudeは存在感を高めています。さらにOpenAIは、“Transformer論文”の共著者の獲得とSamsungへの大型導入で攻勢を強めました。

これらは別々のニュースに見えて、実は同じ方向を向いています。AIは「質問に答えるチャットツール」から、業務を動かし、研究を進め、複数のAIが連携して価値を生む基盤へ移りつつあります。だからこそ、企業側に必要なのは、1社・1モデルに賭けることではありません。複数のAIを使える状態を保ち、データ・権限・運用ルールを整え、必要に応じて乗り換えられる体制を作ることです。

LLMOも同じです。「ChatGPTでどう見えるか」だけでは不十分です。Gemini、Claude、Perplexityなど、複数のAIに自社がどう理解されているかを確認し、正確で構造化された一次情報を継続的に整えることが、AI時代の基本動作になります。

来週は、Gemini 3.5 Proや高度な推論機能をめぐる続報、ChatGPT・Gemini・Claudeのシェア争い、OpenAIの上場(IPO)に向けた動き(同社は時期未定としています)、そしてFable / Mythosの提供再開や条件変更の行方に注目です。引き続き整理してお届けします。

※本記事は、Google DeepMindの論文、各社の公式発表・公式ステータス、TechCrunch・CNBC・Axios・Reuters・Fast Company・Sensor Tower(State of AI 2026)などの報道・調査をもとに整理しています。モデルの正式名称・提供状況や各種数値、未確定・報道ベースの内容は、今後変わる可能性があります。

この記事の著者 今津 学 株式会社ノース・ヒル AIディレクター
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